第8回 木育・森育楽会 開催レポート「木と森の、抗えない魅力・魔力を探る!」

第1回 【木と森の魔力編】 2023年2月19日(日)
第2回 【木と森の魅力編】 2023年2月23日(木・祝)

木を使えばそれすなわち木育か。
あなたはSDGsだ、カーボンマイナスだと浮かれ、踊らされていませんか。ファッション化した木育に飛びつき、森や木を知ったつもりになっていませんか。
その木育に愛はあるのか、私たちはもう一度問い直したいと思いました。 今回の木育・森育楽会では、木や森の魔力・魅力に取り憑かれた人たちとともに、木育のあり方そして未来のかたちについて、とことん考え、語っていただきました。
300名近いお申し込みをいただき、当日参加できなかった方のためにアーカイブ配信も行いました。

【木と森の魔力編】 2月19日(日)

コーディネーター 若杉浩一(武蔵野美術大学 教授)、谷知大輔(パワープレイス)
コメンテーター 津高守(JR九州コンサルタンツ(株)代表取締役社長)

第1部   次世代に向けた人材育成

出演 長野麻子(モリアゲ 代表)
竹本吉輝(トビムシ 代表取締役)

「愛の押し売り」のビジネスモデルをかかげ、森と街をつないでモリアゲる会社を立ち上げた長野さん。森を元気にするためには土壌を変えなくてはならない、そんな土壌をきれいにするための生物の名前を、会社名に冠したトビムシの竹本さん、コーディネーターの若杉さんとはお二人とも盟友でもあります。“社会的に予定調和しなければいけないところでできなかった我々”と言いつつ、森に魅入られた変態を見分ける術を持つ面々なのです。
社会がようやく我々に追いついてきたのか、仕事として成り立つようになってきた。追い風は確実に吹いている(はず)。森=カーボンニュートラルの話がこんなにも世の中にも広まるとは。森の問題を解決するためには、何より横につながっていくことしかないと実感する日々とのこと(共感します)。笑いの中に真実が潜む、モリアゲ談義は必見です。「惑え集え!」

第2部   じわじわ広げる地域内循環

出演 山崎 正夫(シェアウッズ 代表表)
荒山あゆみ(荒山林業 山主の配偶者)

世捨て人を目指しているうちに地域材の流通に関わるようになった荒山さん、生きる意味を模索していて森にたどり着きました。お金ではない部分の「生きていけるかもしれない」を信じてみたい。ここにきてやっと顔の見える範囲内で、地域内での広葉樹活用の歯車がかみ合い始めたと言います。
モノづくりを軸に置きながら、山側と流通側を横断する仕事をする山崎さん、現在は六甲山での山の整備とともに材の循環活用の仕組みを作り、地域の人々を巻き込みながら活動しています。製材所であり、木工所であり、設計事務所など、自分の本業や役割の中で形成する、小さなユニット。それらがじわじわと広がる地域内循環のハブになり得るのだと言います。
山主さんの中にも山への想いがある人はいる、と熱く語る荒山さん。それを受け止めてくれる山崎さん。じわじわと広げるつながりのあり方をぜひ、ご覧いただきたい。

第3部 黒魔術師養成ツアー参加の生徒たち

出演 武蔵野美術大学
 チーム宮崎による学生のレポート
 チーム根津による学生のレポート
 チーム北海道による学生のレポートと彼らを支える大人たちの
   愛の遠 吠え(北海道木づかいチーム)

産学協同プロジェクトとして、夏に2カ月間、地域や企業と学生がリアルな実践的なテーマに挑んでいくという枠組みの授業です。この地域で何をするのかという自問自答とともに社会に何を問うていくのかというハラハラドキドキなプロジェクト。そこに関わる学生3チームの発表です。

その1 チーム宮崎
宮崎に1カ月滞在し、宮崎の林業の魅力を伝えるプロジェクトを行い、「木人 伝森」という冊子を作りました。それを生み出すまでに「見えない価値」をどう表現するのかに悩み、楽しみ、自分と向き合いながら力を尽くした若者の奮闘をご覧ください。

その2 チーム根津
根津の観音通り商店街を舞台に、暮らし、アート、デザインのオープンマーケットを開催しました。根津愛を深めることを目的に、地域の方ともつながりつつ、ユニークなコンテンツを多数作り上げた様子をご紹介。根津に、このお祭りに、行ってみたい!と思わせる発表でした。

その3 チーム北海道(ことはるよー)
一昨年体験したこのプロジェクトを通して、なんと森町に移住することを決めた3人の学生。森町への想いをそれぞれが見事な卒業制作として、作品に昇華させました。ついには若者の人生を変え得る授業になってしまったわけです。画面に見切れる、怪しいキャラクターにも注目…。

完結編
通常長くて2週間の産学協同プロジェクトを、地域を疲弊させないように、学生が自己満足にならないように、本気で取り組むべきものにするため、1か月のプロジェクトに作り変えたという若杉教授の想いを、学生はわかってくれていたのか。その最後を締めくくる大人たちの本音も漏れるコメントをお聴きください。

【木と森の魅力編】 2月23日(木・祝)

森育DAY「自然信仰とアート」
私たちの暮らしや文化は、常に自然とともにありました。ときに荒ぶる自然と対峙し、恵みとしてそのいのちをいただき、感謝し、育みながら、その一方で私たち人間は今バランスを壊すような開発を止められないでもいます。今年の森育DAYでは、日本の森と自然信仰、そしてそれを表現や媒体として伝え共有しようとする活動について学んでいきました。

コーディネーター 赤池円(グラム・デザイン 代表/私の森.jp 編集長/ハヤチネンダ 理事)

イントロダクション~企画意図の紹介「私の森.jpとハヤチネンダ〜いのちをめぐる森のこと」

コーディネーターの赤池さんからの今回の企画を紹介いただくとともに、ご自身の活動、その想いも語っていただきました。
環境問題をふまえつつ、今、山村・里山の森に関心を持つ人が増えています。里山は境界であり、人の営みと自然との折り合い、せめぎあいが今の景観を作っています。そしてそれを人は美しいと感じている。そういったことを紹介していくのが「森と暮らしと心をつなぐ」“私の森.jp”の活動。もう一つ、遠野に誘われ、ハヤチネンダという団体の理事も務められています。馬のいる、奥里山での暮らしを体現する場所。そこでいのちが流れて戻っていく場所、森があれば、私たちはもっと幸せになれるのではないか。そう思いながら還っていきたいと思える森づくり“いのちを還す森”のプロジェクトを進めています。
森と心。体で感じたり心で描けたりする森。都市に住む私たちが、できるだけ森を訪れて、その感覚を捕まえていくことが大切。この先難しい時代になっていく中で、それが力になってくれると、語ってくれました。イントロダクションでありながら、豊かで深いお話をぜひ。

第1部:基 調 講 演  「日本の森と野生・アーツ&ルーツ」秋田公立美術大学 アーツ&ルーツの取り組みと研究

講    師 石倉敏明(人類学者・神話学者/秋田公立美術大学 准教授)    

基調講演には新進気鋭の人類学・神話学者の石倉敏明さんをお迎えして、日本の森と暮らす風土、そのなかで表現される「野生」と自然への「祈り」や願いなどについてお話いただきました。交錯する記号と感情、表現者を通して現れる森の魅力とは…情報量の多さに驚くばかりの時間となりました。

石倉先生の原体験は子ども時代のインドへの旅行から。一人で宿を抜け出し、インドの街をさまようなどの冒険をした。その原体験からかインド仏教に興味を持った。…というような話からインドで生まれた仏教が日本で変化したのには日本の森の存在があったからではないかという考察。そこから日本の羽黒山、山伏の修行の話へつながり、「生命の宿る聖地は海の向こうか山の彼方に」という古からの認識。山は母胎空間であり、死者の空間でもある。そして死者はハヤマ(端山)⇒深山⇒天へと進む。

宮崎の神楽、船津の胎内くぐり、富士講、北上山地のシシ踊りなど、日本各地への目線からスマートシティとワイズフォレストのかかわり、森の知恵が入っていないと幸せは感じられないという事実から、飼いならされない野生。その野性を森と接続する…という全編キーワードだらけ、魅力的な写真と大切な言葉だらけのお話と、学生さんたちのアートの歩みを紹介いただき、耳も目も離せない時間でした。

第2部:取り組み紹介   「越後妻有 大地の芸術祭」 / 「森ラジオステーション×森遊会」

出演 三輪 良恵(建築家/MIWA Atelier 代表)
木村 崇人(現代美術家/地球と遊ぶプロジェクト 代表)

第1回の大地の芸術祭から学生ボランティアとして関わりを始めた三輪さん。海外のアーティストの製作サポートなども行っています。森・里山を舞台にした作品があり、夏と冬で印象が変わり理解が深まる作品があったりと、体験することが重要な芸術祭のため、三輪さんが企画する私的なツアーはとても人気です。

“地球と遊ぶ”というテーマで作品を作る木村さん。いちはらの芸術祭で製作した「森ラジオ」という昔の駅舎を山に見立てて使った作品を、地元の有志の会が、10年にわたり守り続けています。森と人をつなぐ作品には強い求心力があり、100人を超えるメンバーが思い思いに集まり維持管理作業をしてくれています。

たくさんの写真とともに語られる、芸術祭で生まれたストーリーが、とても魅力的で訪れてみたくなります。ぜひご覧ください。

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